「お湯(コーヒー)をドリッパーから落としきらない」だとか「落としきる」だとか、ドリップの常識は時代と共に変わっています。
不変の常識ならそれに倣うべきでしょうが、常識が変わるようではいったいどう淹れたらいいのか……困惑してしまいますよね。
でも、そんな困惑も今日まで。ここで解決してしまいましょう。
まず、ドリップの新旧の常識についてまとめます。
次にどんなときに新旧どちらの常識に倣うか提案しようと思います。
昔ながらのドリップ「粉の縁にかけない」「落としきらない」
ドリップについて調べると、ほぼ確実に耳にする(目にする)常識があります。
・「コーヒー粉の縁にお湯をかけない」
ドリッパー内の粉の縁(粉とフィルターが接する部分)にお湯をかけると、粉層を素通りしてただのお湯に近いものがドリッパーの外に出てしまうから。
・「ドリッパー内に最後に残ったお湯(や泡)はサーバーに落とさない」
ドリップ開始から時間が経つほど雑味が抽出されるから。
そしてドリッパー内液面の泡が雑味のある成分を吸着しているから。
今のドリップ「粉の縁にもかける」「落としきる」
ドリップの常識が、最近では変わってきているようです。
おそらく競技会が発信源でしょう。
・「コーヒー粉の縁にもお湯をかける」
粉の縁にお湯をかけることでドリッパー内で粉を攪拌させ、十分にコーヒーの成分を抽出したいから。
・「ドリッパー内に最後に残ったお湯までサーバーに落としきる」
できるだけ多くのコーヒーの成分を抽出したいから。
昔→今 なぜ変わった?
「粉の縁にかけない(昔)/かける(今)」という点については、やり方は違っても、目的はいずれもコーヒーの成分を十分に抽出することです。
一方、「落としきらない(昔)/落としきる(今)」という点に関しては、昔と今で目的が真逆になっています。
「落としきらない(昔)」のは雑味を避けるためで、いわば引き算の味作りでした。
「落としきる(今)」のは全てを余すことなく味わうためで、いわば足し算の味作りです。
なぜ引き算(昔)→足し算(今)と変化したのでしょうか?
ここからは私の持論ですが、ドリップ手法以外の昔と今の相違点が原因だと考えています。
実は現在のコーヒーチェリーの品質は昔とは段違いに上がっており、非常に高品質なコーヒー豆が手に入るようになりました。
さらにコーヒーにも流行があり、現在は浅・中煎りのすっきりした綺麗な味わいが人気です。
つまり、現在では、栽培・焙煎など、ドリップ以外の過程により苦渋味やえぐ味の少ない綺麗な味が作られているため、ドリップで神経質に引き算する必要がないのではないか、私はそう考えています。
本記事で「今のドリップ」として紹介している淹れ方は、おそらく競技会出場者のドリップ技術を基にしていると思います。
ああいった競技会では極めて上質な豆でなければ使われませんから、確かに引き算の必要はないでしょうね。
結局どうドリップすれば良い?
昔ながらの「粉の縁にかけない」「落としきらない」ドリップ。
今の「粉の縁にもかける」「落としきる」ドリップ。
大抵の方はどちらかに従っていると思いますが、「うまく使い分けるべき」というのが私の持論です。
「粉の縁にかけない(昔)/かける(今)」はドリッパーにより判断
ORIGAMI、ネルフィルター
昔ながらのドリップでは「粉の縁にかけない」わけですが、これはお湯がコーヒーの成分を十分に含まないままコーヒー粉の層を素通りしてしまうことを防ぐためです。
実際、ORIGAMI(円錐フィルター使用時)のようなリブの深いドリッパーや、ネルフィルターのように全体からコーヒーが染み出すフィルターの場合は、粉の縁に注いだお湯の一部は粉の層を通らずにフィルター外に出てしまいます。
よって、昔ながらの「粉の縁にかけない」ドリップが適しています。
コーノ式
コーノ式は、リブが途中までしかないという点で特異なドリッパーです。
リブのある下部からはお湯(コーヒー)が染み出し、上部からは染み出しません。
ドリップ開始時、未だドリッパー内の液面は低く、粉の縁に注いだお湯の一部は粉の層を通らずにフィルター外に出てしまいます。
ドリップ開始時は、 昔ながらの「粉の縁にかけない」ドリップで、十分にコーヒー成分を抽出しましょう。
しかしドリップを進め、液面をリブの無い高さまで上げた後は、粉の縁にかけたお湯も粉の層を通り、成分が十分に抽出されます。
ドリップ終盤は今風の「粉の縁にもかける」ドリップをすることでドリッパー内で粉を攪拌させ 、十分にコーヒー成分を抽出しましょう。
ただし、逆に、過抽出により味がキツくなることを避けるために、昔ながらの「粉の縁にかけない」ドリップを選ぶこともできます。
ハリオ式、カリタ式
これまでに説明したORIGAMIとコーノ式の中間に位置するのが、ハリオ式やカリタ式かもしれません。
つまりコーノ式とは違い上までリブはあるものの、ORIGAMIほど深いリブではないのです。
よって作りたい味に合わせて、昔ながらの「粉の縁にかけない」ドリップも、今風の「粉の縁にもかける」ドリップもできるでしょう。
「落としきらない(昔)/落としきる(今)」は焙煎度により判断
浅・中煎り
上質な豆を、今流行りの浅・中煎りに仕上げた綺麗な味わいのコーヒーならば、そもそも雑味が少ないため引き算の必要はほぼありません。
よって、浅・中煎りでは今風の「落としきる」足し算のドリップをおすすめします。
そもそも今風の常識は、現在流行している浅・中煎りコーヒーを美味しく淹れるために生まれたのではないでしょうか。
深煎り
どれほど上質なコーヒー豆でも、深煎りにすると苦渋味やえぐ味がキツくなりがちです。
「落としきらない」ことで、深煎りの強すぎる苦渋味を引き算して、コクや甘みに舌が届きやすい味わいを目指したくなります。
ドリッパー内の泡には苦渋味のキツい成分が集まっているため、泡周辺のコーヒーを落としきらずに終えれば、このキツい苦渋味を引き算できます。
考えてみれば、深煎りコーヒーのドリップでは他にも引き算をすることが多いです。
例えば、比較的低い温度のお湯でドリップするのは、抽出される成分を限定し、キツい苦渋味を引き算するためです。
さらに、ネルドリップでコーヒーオイルを多く抽出することで、深煎りのキツさを引き算した滑らかな味わいを目指すことも多いです。
こうした引き算の一環として「落としきらない」という選択肢を持っていても良いと思うのです。
最近の流行や競技会はいざ知らず、日本では昔から深煎りを愛する方たちが多くいました。
そんな国で受け継がれてきた昔ながらのドリップには、上手な引き算の技術が詰まっています。
古い技術だからといって安易に根拠の薄い間違った技術と切り捨てるのではなく、適時・適所で利用していくべきと考えます。
最後に
最後までご覧頂きましてありがとうございます。
どのようなこだわりを持つにしても、自信を持って淹れたコーヒーには魅力が宿るものだと思います。
今回はちょっとマニアックでしたね。
もう少し基本的なことから知りたい、という方のための情報は「コーヒーの淹れ方①」に記載しています。
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