ネルドリップは布フィルターを用いたコーヒー抽出法です。
「1番美味しく淹れられるドリップ方式」と評価されることが多い抽出法でもあります。
その特徴や淹れ方、またネルフィルターの面倒の無い保管方法を紹介します。
ネルドリップとは
「ネル」とは生地の一種フランネル(Flannel)の略称で、これは生地の片面もしくは両面を起毛させた厚手の織物です。
典型的なフランネルは秋冬のスーツに使われる毛織物ですが、綿を使用したコットンフランネルもあり、後者はいわゆるネルシャツ(下の写真)に使われる生地として有名です。
20世紀のドイツでペーパードリップが開発されるより前、18世紀のフランス(19世紀のイギリスという説も有り)で布フィルターによりコーヒー粉を濾し取るドリップ方式が生まれました。
この技術が日本に入ってきた頃、出汁を濾すのに使われるコットンフランネルを使用してドリップしたことから、日本ではこの技術を「ネルドリップ」と呼びます。
特徴
ネルドリップでは、滑らかでコクがあり、香り高いコーヒーを淹れられます。
これは、ネルフィルターがオイルを通すため、そして、 微粉をしっかり濾し取るためです。
オイルを通す
コーヒーは親水性(水に溶ける)成分と親油性(オイルに溶ける)成分を含みます。
日本で最も馴染み深いであろうペーパードリップでは、ペーパーフィルターがコーヒーに含まれるオイルを吸着し、濾し取ってしまいます。
結果、抽出されたコーヒーに含まれるオイルや親油性成分は控えめです。
一方、ネルフィルターはオイルや親油性成分を通すため、ネルドリップコーヒーはコクのある深い甘みを持ちます。
また、親油性成分は香りへの影響も大きく、芳醇で艶のある香りが漂います。
また、キツい苦渋味などの味の「棘」をオイルが包み込むため、シルクのように滑らかな極上の口当たりになります。
微粉をしっかり濾し取る
ネルフィルターと同様にオイルを通すフィルターとして金属フィルターが挙げられます。
ただし、金属フィルターが微粉(極細のコーヒー粉)を透過してしまうことが多く口内でざらつくのに対し、ネルフィルターは微粉もしっかりと濾し取るため、口当たりの良いコーヒーを淹れられます。
ネルドリップに向いたコーヒー
ネルドリップといえば深煎りコーヒーです。
浅煎りでもネルドリップならではの滑らかさを楽しめないことはありません。
しかし、深煎りコーヒーの場合には、ネルドリップコーヒーの滑らかさが苦渋味などの「棘」を覆い隠してくれるため、コーヒーオイルの恩恵をより強く感じられるはずです。
浅煎りや中煎りはペーパードリップでも、深煎りはネルドリップで淹れる、なんてお店もありますよ。
コーヒー豆の細胞内にはオイルが含まれます。
ミルで挽いた際に全ての細胞が粉々になればオイルが最大限に抽出されるはずですが、実際にはそこまで細かくはなりませんから、抽出できないオイルがあるはずです。
ただし、このオイルは、焙煎後に熟成が進むと細胞外に滲んできます。
そして深煎りの場合、細胞壁が大きく破損するためか、この滲み出るオイルが特に多いのです。
結果、抽出されたコーヒーに含まれるオイルや親油性成分の量は、焙煎度が深くなるほど多くなり、「オイルを通す」というネルフィルターの特性を最大限に活かせると考えられます。
新品のネルフィルターを使う前に
新品のネルフィルターは糊が付いているものが多いため、20分ほどお湯で煮て、これを落とします。
このとき、コーヒー粉の出がらしをお湯に入れます。
これはオイルなどのコーヒー成分をネルフィルターに馴染ませるためです。
ここでただのお湯で煮るだけだと、特に初めての抽出の際にコーヒーの成分をネルフィルターが吸着してしまうことが予想されます。
煮た後はネルフィルターを水洗いしてコーヒーの粉を落とします。
淹れ方
以下の流れに沿ってドリップします。
- ネルフィルターを水ですすぎ、しっかりと絞る
- ネルフィルターにハンドルを通す
- (スタンドを使う場合はその上にネルフィルターを置いて)ネルフィルターにコーヒーの粉を入れ、平らに均す
- サーバーにお湯を注いで温めた後、お湯を捨て、ネルフィルターの下に設置する
- コーヒーの粉と同量のお湯を注いで30秒程度蒸らした後、数回~十数回に分けてお湯を優しく注ぐ
上記1~5を、以下で1つずつ詳細に説明します。
1.ネルフィルターを水ですすぎ、しっかりと絞る
ネルフィルターを水ですすいで、絞ります。
5でドリップする際にお湯が冷めることを避けるために、ここでしっかり絞ります。
ネルフィルターを冷凍庫で保管(後述)した場合、この作業で解凍されます。
なお、冷凍されていなくてもこの水ですすぐ作業は必要です。
2.ネルフィルターにハンドルを通す
ネルフィルターにハンドル(フレーム)が通されていなければ通します。
既製品のハンドルもありますが、簡単なものなら針金で作ることもできます。
自身が使いやすいよう、持ち手の大きさ・形にこだわるのも楽しいものです。
ネルフィルターは、表(ツルリとした面。下写真左)と裏(起毛面。下写真右)のどちらを内側にしても使えます。
裏を内側にすると起毛面にコーヒーの粉が詰まって手入れが面倒なので、私は表を内側にしています(上の写真でいう左側の状態で使っています)。
3.(スタンドを使う場合はその上にネルフィルターを置いて)ネルフィルターにコーヒーの粉を入れ、平らに均す
ネルフィルターにコーヒー粉をセットし、平らに均します。
ハンドルとネルフィルターを手で持って淹れる方もいますが、特にネルドリップを始めて間もない頃はスタンド(下写真)にネルフィルターを乗せたくなるかもしれません。
4.サーバーにお湯を注いで温めた後、お湯を捨て、ネルフィルターの下に設置する
サーバーにお湯を注いで温めましょう。
その後、サーバーからお湯を捨て、ネルフィルターの下に設置します。
ネルフィルターはペーパーフィルターより厚く、また、どれだけ絞ってもやはり濡れています。
加えて、ネルドリップではじっくりと時間をかけて抽出する(淹れ方の5)こともあり、実はコーヒーが冷めやすいという特徴があります。
ペーパードリップではサーバーを温めることをサボりがちということもあると思いますが、ネルドリップでは予めサーバーを温める工夫は必須と考えてください。
5.コーヒーの粉と同量のお湯を注いで30秒程度蒸らした後、数回~十数回に分けてお湯を優しく注ぐ
コーヒーの粉と同量のお湯を注いで30秒程度蒸らします。
その後、ペーパードリップ以上に優しく注ぐことを意識しながら、数回~十数回に分けてお湯を注ぎます。
ペーパードリップであれば、注がれたお湯から伝わる運動エネルギーによりコーヒーの粉は暴れ、攪拌される中で成分が十分に抽出されますから、ある程度勢いよくお湯を注ぐのも1つの技術です。
一方、ネルドリップでは、コーヒーの粉やお湯が持つ運動エネルギーの一部はネルフィルターを膨らませる力になるため、その分の運動エネルギーが粉やお湯からは失われます。
膨らんだネルフィルターが粉やお湯を包むように押さえることもあって、ネルドリップではコーヒーの粉やお湯が比較的攪拌され難いという特徴があります。
それでもコーヒーの成分を十分に抽出するには「十分な厚みのある粉の層にじっくりお湯を通す」ことが重要です。
これを実現するために、粉の表層を削らないよう、またお湯が粉の層を一気に突き抜けないよう、お湯を粉の上にそっと置くように注ぐことを意識します。
ペーパードリップならば3分程度で終えますが、ネルドリップでは少量ずつそっと注ぐため、もう少しかかるかもしれません。
洗浄・手入れ
ドリップ後は、すぐにネルフィルターを水洗いしてください。
このとき洗剤は使わないでください。もし使うと臭いが残ってしまいます。
代わりに、汚れや目詰まりが気になってきたらお湯で煮て、汚れや目詰まりを解消しつつ煮沸消毒します。
保管
ペーパーフィルターが使い捨てであるのに対し、ネルフィルターは何度も使えます。
何が言いたいかというと、つまり、保管することになるということです。
ネルフィルター保管の際には、乾燥させないことが重要です(渇くと臭ってしまいます)。
冷蔵庫保管
タッパーなどに入れた水にネルフィルターを浸して冷蔵庫で保管し、毎日その水を入れ替えます。
これがネルフィルターの基本的な保管方法であり、「面倒だから」とネルドリップを避けてしまう最大の原因です。
その点、次に紹介する「冷凍庫保管」は面倒が少なくておすすめです。
冷凍庫保管
水洗いしたネルフィルターを絞り、密閉できる袋に入れて冷凍庫で保管します。
凍ったネルフィルターは、淹れ方の1(先述)で水ですすぐ際に、さほど時間をかけなくても解凍されます。
冷蔵庫保管のような水の交換がないというだけでも、ネルドリップを避ける1番の理由「面倒」は大きく軽減されます。
長期間ネルフィルターを使わないときも冷凍庫保管をおすすめします。
最後に
仕事や学校が忙しい平日はペーパードリップでも良いと思います。
でも、週末にはネルフィルターを解凍して、じっくり時間をかけてコーヒーを淹れる……そんな贅沢な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
この記事により、皆さんの大事な時間がより充実することを願っています。
別の記事になりますが、初めてのネルドリップに最適な器具を紹介しています。
当ブログには、別のネルフィルターの記事もありますので、お時間があるときに是非。
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